【N中等部】学園を挙げてPBLを強力にサポート!

スタートアップJr.アワード2022の中学生部門にファイナリスト2組を輩出し、文部科学省大臣賞も受賞したN中等部。先進的な取り組みを行う高校としてN高等学校、S高等学校(以降、N/S高)は有名ですが、N中等部とはどのような場所なのでしょうか?N中等部、N/S高でPBLを担当している久保明香さんにお話を伺ってきました。(取材:羽田啓一郎)

N中等部とは?

―この度は文部科学大臣賞の受賞、おめでとうございます。N中等部について知らない方も多いと思いますので、まずはN中等部の基本的なことを教えてください。

久保: N中等部は学校法人角川ドワンゴ学園が運営する「プログレッシブスクール」として2019年に設立されました。N/S高は認可を受けた学校法人として高卒資格を取得できますが、N中等部は学校教育法第一条に定められた中学校ではないので、フリースクールという位置付けになります。N中等部に通う生徒は他に在籍している中学があり、さらにN中等部にも通っているが特徴です。

―どのような生徒がN中等部に通っているのですか?

久保:さまざまな生徒がいますが、設立当初は中学校で困り感がある子が多かったです。学校に何らかの事情で通えなくなってしまった子が通信の授業をN中等部で受けて学習の補填をしていく、というケースです。ただ、私たちの教育プログラムに関心を寄せていただき、「中学校のうちからこういう勉強がしたい」というニーズも増えて、在籍校とN中等部の両立をしている生徒も増えてきました。

―N/S高といえばPBL(*1)が有名です。N中等部でもPBLを実施されているのでしょうか。

*1:Project Based Learning。プロジェクト活動を通じてチームワークや思考法、アウトプットスキルなどを体得していく学習方法

久保:はい、私たち角川ドワンゴ学園の教育は、これからの社会で求められる“21世紀型スキル”を生徒に身につけていただくために、PBLやプログラミング教育に力を入れています。受験対策だけでなく、いかに社会と接続させられるかを大切にしているのです。N中等部もN/S高と同じ考え方をしていますが、N/S高で行っているPBLよりもコマ数を減らしたり中学生が取り組みやすいようにアレンジをしています。生徒はクォーターごとに取り組むテーマを変えて1年間で3〜4本のPBLテーマに取り組みます。そして2022年度は1年間の最後のテーマとして、スタートアップJr.アワードの中学生部門などのコンテストにに提出することをゴールとしました。

学校申込の特典を利用して生徒の発表に外部視点を入れる

―私たち事務局のスタッフも学内の成果発表会にZoomでお邪魔させていただきました。

久保:今年初めてスタートアップJr.アワードに参加させていただきましたが、一定の人数で申し込みをすれば事務局スタッフが1コマ、講座を実施していただけるということで私たちはそれを学内発表のフィードバックの機会として利用させていただきました。スタートアップJr.アワードのテーマが「ソーシャルイノベーション」だったので、繋げやすいように学内では「社会課題の新サービスを考えよう」というテーマで生徒に1ヶ月間取り組んでもらいました。その中で「参加したい」と手を挙げた生徒のプレゼンテーションを、アワード事務局スタッフの方にフィードバックしていただいたのです。

―どのようにプログラムは進められたのでしょうか?

久保:「社会課題」は中学生にとっては少し遠く自分ごと化しづらいので、SDGsの中で自分が興味がある分野を選んで調べるところから始めました。一人で取り組んでもいいしチームを組んでもいい、という自由な形で実施したのですが、ほとんどの生徒が一人で自分が興味のあるテーマに取り組んでいました。

―しかし、生徒の皆さんはインターネットで授業に参加しているのですよね?どのようにネットでPBLを進めているのか、なかなかイメージがつかないのですが…。

久保:N中等部には通学するコースもありますが、”ネットコース”と呼ばれているインターネットだけで授業に参加する生徒たちも多く、ネットコースの場合はZoomで授業を行い、生徒と職員のコミュニケーションはSlackで行います。ネットコースでは約1,000人がPBLに参加しています。

デジタルツールやティーチング・アシスタント(以降、TA)、教材専用チームがPBLを全面バックアップ

―1,000人!それだけの人数のPBLを指導していくのはかなり大変だと思うのですが、どのように実現しているのですか?

久保:そうですね、たしかに職員だけでサポートしきれる人数ではありません。ただ、私たちには大学生のTAが活躍してくれる土壌があり、ネットコース、通学コース合わせて140人程のTAが在籍しています。授業は職員がZoomで行い、生徒が質問したり、生徒のアウトプットに対するフィードバックは大学生TAがサポートしてくれます。TAの皆さんは本当に優秀でとても助かっています。

―スタートアップJr.アワードで決勝に進んだ二人もTAがサポートしていたのでしょうか?

久保:はい。TAにプレゼン練習を付き合ってもらい、フィードバックを受けていたようです。PBLはアイデアをゼロから出していく必要がありますが、そこでつまづいてしまう生徒もいます。その時にTAが「興味があるところから調べてみよう」と導いてくれます。生徒はわからないことや困ったことがあったらSlackでいつでもTAに相談することができます。

―なるほど、企業のコミュニケーションツールとして有名なSlackを使っていたり、「社会との接続」を目指されていることがよくわかりました。TAのサポートを受けながらPBLを何度も繰り返しやっていたら生徒は成長しそうですね。

久保:そうですね、年間複数本のテーマをやってもらうのですが、取り組む期間や難易度は工夫しています。やることが多かったり、長期で取り組むテーマの場合は一人だと息切れしてしまうので、チームを組んで実施することもあります。繰り返し繰り返しPBLに取り組むうちに、生徒も自分の適性や興味分野を自覚してくれるようです。

―チームで取り組む場合の組み合わせはどのようにされていますか?

久保:N/S高は自分たちで自由にやってもらっていますが、N中等部は職員が生徒のバランスを見て組みますね。成果物にデジタルツールを使用することが多いので工夫しているのは、チーム内に必ず一人はデジタルに強い生徒をいれることです。N/S高と同じテーマをN中等部で取り組むときも、中学生向けにもわかりやすい授業運営を心がけています。

―それだけたくさんのテーマを回すとなると授業を担当する先生も大変だと思うのですが、そこはどうしているのでしょう?

久保:これもN中等部、N/S高の強みかもしれませんが、PBLの教材を作ることを専門にしているチームがあり、実は私もその教材チームの一人です。「社会との接続」を大切にしながら、どのようなテーマにするか、そしてそのテーマを進めるにあたってどのようなカリキュラムにすべきかを教材チームが企画検討して教材を作り、PBLを担当する職員に指導方法をレクチャーするのです。今回は「社会との接続」という観点で中学生が参加できる外部コンテストを探していたところ、スタートアップJr.アワードを見つけたんです。型にはまっていないコンテストで、N中等部のプログラムにも取り入れやすかったので出場しました。PBLで成績評価をつけることはしていませんが、今回は結果的に決勝大会に2人進出できたのでよかったと思います。

―PBLに本気で取り組んでいることが学内の仕組みやインフラからも感じられました。ありがとうございました!

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