【鎌倉学園】自主自律を大切にした探究学習とは?

スタートアップJr.アワード2022の中学生部門で優秀賞を受賞した鎌倉学園。探究学習授業の一環で今回はじめて大会に参加していただきました。ご担当いただいた鎌倉学園の澤村先生(写真右)、学年主任の平野先生(写真左)にご指導についてお話を伺ってきました。
(取材:羽田啓一郎)

自主自律を校訓に、生徒の自主性を育む

―この度は受賞、おめでとうございます。鎌倉学園という学校はどんな学校なのか、まずは基本的な部分を教えてください。

澤村:鎌倉学園は中高一貫の男子校です。受験勉強を頑張る生徒もいれば、部活動に熱心な生徒もいて、さまざまな生徒が自分の生き方ができるように、それぞれの考え方を尊重することを大切にしています。

平野:校訓として「自主自律」という言葉を大切にしています。進学実績を上げることも大切ですが、それを優先するあまりに生徒の部活動を制限したりはしません。教員にも多種多様な人材が勤務しており、どのような生徒でも対応できるのが特色です。統一感にこだわらず、生徒ひとりひとりが自主性を保てる学校を目指しているのです。

―ありがとうございます。ではスタートアップJr.アワードに取り組むようになった経緯を教えてください。

澤村:本校の特徴として、担任の教員は中学1年から3年までずっと同じクラス、同じ生徒を担当するという方針があります。3年間ともに過ごすことでお互いの信頼関係を作っているのです。今回、スタートアップJr.アワードに参加した生徒は中学3年生。私たちは中学1年生から彼らを見てきましたが、私はその中でも探究学習を担当してプログラムを作ってきました。その経緯から3年生の最後に取り組ませたのがスタートアップJr.アワードでした。これまで行ってきた成果の一つとして、校外のコンテストを探していたのですが、開催時期や参加費用が無料の点など、取り組みやすいと感じました。

―これまではどのようなプログラムを行っていらっしゃったのですか?

澤村:プレゼンテーションなどを扱った教材を使って、汎用的なスキルを中学1年生の時に学びます。また中学1年生の時には「鎌倉」を題材にしてフィールドワークをしながら「鎌倉の仕事」について調べ学習を行いました。中学2年生では旅行代理店とコラボをして日帰り旅行パックを考案する、というプログラムも行いました。そして中学3年生の6月の学園祭に向けて、どんなことでもいいので、生徒自身が関心を持っていることを保護者にプレゼンテーションする、という取り組みも行いました。

平野:3年間のプログラムを通して意識していたのは、必ず「他者からのフィードバックを入れる」ということです。そこに学びがあります。他者からのフィードバックをどうプログラムに組み込むのかは教員が工夫をしなければならないポイントです。そして、中3の最後にいよいよ校外で勝負するコンテストに出よう、ということになったのです。

既存の枠組みで考えず、生徒を信じることが探究学習指導のポイント

―ありがとうございます。探究学習は生徒のモチベーション維持にご苦労される先生も多いのですが、何か工夫されていることはありますか?

平野:指導していく教員が生徒のことを信用することが大切だと考えています。探究学習には決まった方法論も正解もありません。だから私たち教員も考え方を根本から考え直さなければならないのです。中学生は、表に出すかどうかはともかく、何かしらやりたいことや言いたいことがあります。それを大人目線で「違う」と言わないこと、「こうあるべし」と決めつけないことです。大人・教員目線で生徒の考えや行動を制限してしまうと、モチベーションは維持できないでしょう。

平野:言いたいことや、やりたいことがあるなら先生に遠慮なく言いなさい、と生徒たちには伝えています。心理的安全性があれば、生徒は自分たちで考えて動きます。教員はそうした生徒の思いを尊重してあげるのです。ただ、そうした関係が成り立つのは本校が同じ担任で3年間過ごすからかもしれません。

澤村:もちろん、自分で動けない子もいます。そこは探究学習のグループの組み合わせで解決します。自分で動く子たちと動けない子の組み合わせを工夫して「自分のやりたいことをやるのが当たり前」という雰囲気をうまく作っていくのです。生徒の組み合わせを考えるのが教員の役割です。そのためには普段から生徒たちとしっかり向き合っている必要があります。

―探究学習の取組への評価はどのようにされていますか?どう評価していいか悩まれる先生も多いようです。

平野:本校の評価はABC評価ですが、探究学習に関しては全員Aでいいと思っています。探究学習の評価で差をつけようと思っていません。そこもやはり「評価しなければならない」という既存の考え方をしてしまうから難しくなるのだと思います。

―なるほど・・・。確かに既存の仕組みにあてはめようとするから難しいのかもしれませんね。しかしそれだと他の先生方の理解は得られるのでしょうか?他校の先生にお話を伺うと、探究学習は担当の先生以外が協力的でなく孤立無縁になる、というお話も聞きます。

平野:学校の事情によるところもあると思いますが、それもやはりクラスや学年で同じやり方を統一させようとするからハレーションが起きるのかもしれません。生徒も先生も自由にやらせるのがいいのです。みんなが無理のない方法を取る。クラスによってやることが変わってもいい。生徒が面白く取り組んでくれればそれで良いのではないでしょうか。

スタートアップJr.アワードで生徒の目の色が変わった

―鎌倉学園の指導の考え方がよくわかりました。それでは最後に、スタートアップJr.アワードに出場した生徒たちの成長や変化について教えてください。

平野:決勝大会に進んだ4人はそれぞれ本当に成長しました。チームリーダーを務めた男子生徒は成績も学年トップクラスで目立つ存在でした。でも、他の3人が今回のアワードを通して覚醒しましたね。

澤村:リーダーの生徒も、それまでは自分で全部進めてしまうような傾向でした。自分でやった方が早いしうまくいく、と。実際、今回のアワードも途中までは彼が主導してやっていたところがあった。でも、それではダメだと彼自身が気づいた。決勝大会に向かってブラッシュアップをしていく過程で、自分一人で考えるより他のメンバーのアイデアや意見を取り入れた方がもっと良くなることに気づいたのでしょう。

澤村:事務局メンターからのフィードバックも取り入れて、アイデアを「自分ごと化」していくことも学びました。それまでは「大人はこういうことを言えば褒めるだろう」といった対策のような考え方をしていたんです。でもそれが「自分たちのアイデアを鎌倉学園でやったらどうなるか」という発想に変わった。これは大きな変化でした。

平野:今回、アワードで賞を取れたことは、一つの成果として保護者や教員に示すことができたのも担当教員としては嬉しかったです。正直、探究学習じゃなくて受験指導に力を入れてほしいという保護者のお声もあったのですが、この3年間の生徒の成長を見て「自主自律という言葉の意味がわかりました」というお言葉を保護者からいただけました。これは嬉しかったです。

澤村:アワードの決勝大会で特別審査員の尾木ママが「いい雰囲気の学校なんでしょうね。生徒を見ていればわかります」と語ってくださりました。あれが本当に嬉しかった。最近は生徒も「これってやってもいいですか?」と聞いてこなくなりました。自分で考える癖ができたのだと思います。生徒がやりたいことを伸び伸びとやってくれればいい。本校の「自主自律」が達成できるようにこれからも精進したいと思います。

―既存の枠組みにとらわれず自主自律の精神でご指導されていることがよくわかりました。ありがとうございました!

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